Presented by B.B.C./Biwako Bass Communications

Editorial
Vol.40(04/05/08)

琵琶湖のコイヘルペス

 滋賀県は5月7日、コイヘルペスウィルス(KHV)が他の水域に拡がるのを防ぐために近江大橋以南の琵琶湖など3水域のコイを他の湖や川に放流することを禁止する方針を決めた。今回指定されるのは、近江大橋以南の琵琶湖と彦根旧港湾、西ノ湖の3カ所。10日から禁止措置を取る。すでに瀬田川では3月15日以降、コイを他の水域に放流することが禁止されており、それに3水域が加わって合計4水域が禁止の対象になる。

 春にバスフィッシングをしていると外道でコイやフナが釣れることがたまにあるが、上記水域でコイを釣った方は要注意。だけど、水がつながってるほかの場所のコイは大丈夫なのか??? 本当は琵琶湖全域禁止にした方がいいんじゃないの……。それができない事情があるとしたら、いったい何のため? 誰のため? この機に及んでも、こんな後手後手の対策しか取れないようなことだから、琵琶湖のコイにKHVがうつっちゃったんじゃないのか。

 県内のKHV感染拡大に対応してKHV対策チームから格上げされたKHV対策会議の初会合がゴールデンウィーク明けの5月6日に行われた。そこで決まったことと言えば、上記の禁止措置と、集中的にコイを回収する水域に上記4カ所を指定すること、農林水産省と全国内水面漁連に要求を出すことぐらい。その要求というのが、遺伝子調査などによる感染原因や経路の解明、コイ以外の魚へ感染する可能性の調査研究、コイの回収調査費用などの助成、風評被害防止のための正しい知識の普及だって……。はぁ??? まだそんなこともやってなかったの? 4水域で集中的にコイを回収するって、連休中からやってたんじゃなかったのか。確か5月1日頃のテレビニュースで見たぞ!! それを後追いで決めたりするのは、つまり誰かが自分の責任で決めるのを嫌がったからか。

 こんな茶番のような会議をわざわざ開かないと、たったこれっぽっちのこともできないなんて、機構的に問題があるとしか思えない。これってつまり、自分達には責任がないことを相互確認すると同時に、他に責任を転嫁し、その目的のためにメディアを誘導するための単なるデモンストレーションとして会議を行っただけではないのか。やってることが琵琶湖の外来魚対策とめちゃ似てるような気がするぞ!! ということは、コイの他の水域への放流禁止も、リリース禁止と同じようなことになってしまうのだろうか。

 この件に関して國松知事は7日の記者会見で「人がコイを持ち出す人為的な行為による感染拡大を防ぎたい。人には問題なく、他の琵琶湖の魚に感染する事実もない。正しく理解していただきたい」と言ったとか。 思わず「なんで琵琶湖にブルーギル……じゃなくてKHVが?」と突っ込みを入れたくなる発言である。おまけに、お得意の「ご理解」発言まで追加サービスしていただいたのだから、当代一流のボケにさらに磨きがかかってきたと評価すべきかもしれない。そのうちきっと滋賀県のKHV対策も「ご理解いただくことができて非常にうまくいってる」ことにされちゃうんだろうね。ちゃんちゃん。

 滋賀県水産課と水産試験場の担当職員は、連休返上で死んでるコイを回収したり検査したりでもうたいへん。連日のように新聞紙面をにぎわせているから、滋賀県の広報も連休返上なのかもしれない。新聞記事はそのつど回収されたコイの数とKHV検査で陽性反応が出たコイの数を伝えているが、通算何尾が回収されて何尾が陽性だったのかさっぱりわからなかった。それが連休明けの記事にやっと載り始めたが、各紙が集計したタイミングにより数字が異なったりしてるから、あいかわらずたいへんわかりにくい。これは滋賀県の発表のまずさに原因があるのだろう。誤解を招かないために、再集計することはやめて、記事の一部を引用する。

Kyoto Shimbun News(5月6日)「県によると、昨秋から今月3日までに県内で死んでいるのを確認し回収したコイ142匹から陽性反応があった」

Yomiuri On Line滋賀(5月7日)「県によると、死亡やひん死状態で回収された天然コイ百九十匹のうち、五日までに百十四匹が陽性と判明」

■Kyoto Shimbun News(5月7日)「琵琶湖や瀬田川ではすでに161匹からウイルスの陽性反応が出ている」

 さらに次のような記載もある。

■Kyoto Shimbun News(5月6日)「5日には141匹の死んだコイを回収するなど、日を追って回収数が増えており、検査が追い付かない状況だ」

■Yomiuri On Line滋賀(5月7日)「陽性数を検査数で割った陽性率は、四月上旬の捕獲分は0%だったが、中旬は40%、下旬は71%、五月一日は94%と急上昇している。水温が上がるにつれ、ウイルスの感染が広がる恐れがあるという」

 これって、すでに現場は想像を絶する緊急事態になってるということなのかもしれない。そんな事態になるとは微塵も思わなかったのか、3月13日の「第49回びわ湖開き」のイベントでは浜大津沖でコイの稚魚1000尾が放流されている。その何カ月も前からKHVのことが新聞やテレビニュースに取り上げられていたにもかかわらずである。その間、お偉い先生方や研究者、政治家、行政の担当者達は揃いも揃って公費で禄を食みながら、いったい何をしてたのだろうか。あるいは、「もう琵琶湖にKHVが入っちゃってるのは間違いないし、今さら根本的対策なんか取れったところで仕方ないから」と何もしなかった、その象徴がびわ湖開きで放流された1000尾のコイの稚魚なのだろうか。

 外来魚対策に関して滋賀県は、バスアングラーと釣り業界に全責任を負わせることにして、リリース禁止を強行した。KHVに関しては、いち早く責任逃れのための対策会議を設置した。やってることは対称的だが、問題の根っ子は同じ所にあるような気がしてならない。そして魚達がまたも最大の被害者になる。コイもバスもブルーギルも……。

 ニゴロブナ、ホンモロコ、コアユ、彼らも同様の被害者であって、ただ利用のされ方が違うだけではなかろうか。漁業者にとって重要な漁獲対象魚については、激減の原因はともかくとして、増やす対策はそれなりに取られる。漁業者に対しては金銭的な手当ても行われる。バスはバスアングラーという味方がいるから、リリース禁止ともなれば強い反対が起こる。ならばコイはどうか。漁業的に重要でもなく、味方になるアングラーもいなければ、どんなことでもやりたい放題だし、やりたくないことはほったらかし。新聞やテレビなどのメディアにそれを正当に評価する能力がないことは言うまでもない。

 漁業者にはちょろっと補償をすればそれで片付く。コイ釣り師の数などたかがしれてるから無視すればよい。それ以上の感心が一般市民にあるわけがない。だったら、KHVはほかの魚に感染する心配もないことだし、予防薬やワクチンもないことだし、それを逆手にとって沈静化するまで様子を見続けることにすればそれでいいじゃないか。もし琵琶湖のコイが全滅したところで、そのときはKHVも一掃されるんだから、しばらくたった後でKHVの心配のないコイをどっさり放流して増やせばいいだけのこと。県は国と一体になって、そのための助成金をたっぷりと用意する。一部研究者と漁業者が組んで、純粋培養のコイを養殖する事業を始める。漁連はそのときのコイの流通を押さえにかかる。それで八方丸く収まれば、誰からも文句が出る心配はない。水産庁と滋賀県が今までやってきたことに照らせば、そんな図式が浮かび上がらないでもない。

 その間にコイが何尾死のうが知ったことではなく、少しでも早くKHVが収まってくれればそれでよい。できることなら、誰も責任を問われないままで……。これすなわち、バスアングラーの意見を聞こうともせず、キャッチ&リリースの精神を理解しないままリリース禁止を強行したのと同様の発想。そこには生命に対する尊厳も生き物に対する愛情のかけらも何もない。せめてバスアングラーにできるのは、琵琶湖でKHVに感染して次々と死んでいってるコイ達の冥福を祈ることぐらいだろうか。

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