Presented by B.B.C./Biwako Bass Communications

Editorial
Vol.43(04/06/19)

リリース禁止という着想の原点

 「日本の内水性魚類を管轄する水産庁は、外来魚移植問題に対して早急に断固とした措置をとらねばならない。外来魚対策委員会が発足して三年になるというのに、反応が鈍すぎはしないだろうか。例えば琵琶湖の漁師に対する有害魚駆除補助金を、期限付きで大幅に引き上げる。(期限付きでないとそれ自体が目的化して"経済資源"になる危険性がある。)違法な放流に対しては、誘拐や殺人や列車転覆に対するのと同じくらいに捜査と摘発を強化する。この環境犯罪はそれほどの重罪にあたるのだ。『環境破壊防止法』を制定して厳罰を適用する以外に方法はない。すでに紹介したように、環境保全先進国は違法な移植等に対する極めて思い罰則と、駆除に対する高額な資金で対処している。釣り人に対しても、例外的な指定地以外は、ブラックバスやブルーギルやブラウンマスといった有害外来種が釣れたら必ず持ち帰るなりして駆除する罰則つき義務を負わせるべきだろう。」

 1992年の朝日ジャーナル新年合併号に掲載された文章である。ということは、書かれたのは今から12年以上前の91年終わり近く。現在は朝日文庫の「日本環境報告(本多勝一著)」に収録されている。

 日本の外来魚駆除ブームの引き金を引いた「ブラックバスが○○○を食う」(本当はバスはそんなもの食ってない。このタイトルだけでも噴飯もの)が99年秋発行だから、それより実に7年以上前の時点でリリース禁止を打ち出してる点に注目すべきであろう。環境保護の実例や情報をお手軽に入手したいと思った人達が、1000円もしない文庫本の「日本環境報告」を読み、そこから自分達の行動を支える思想的なヒントを得て、バスとブルーギルの駆除、リリース禁止に乗り出したということも十分考えられる話である。

 たったこれだけの引用文の中に、後のバスとギル対策(外来魚全般に及ぶ対策でないのは周知の通り)の根幹となるべき方策を簡潔明瞭に示唆してる点も、バスフィッシングブームがその後ほど世間の注目を集めてるわけではなかった92年当時の指摘としては、その着眼点がすごいと思う。と言うか、すご過ぎる。さすが大朝日のエース級記者として日本全国はおろか世界各地を駆けめぐり、人種、文明、思想、環境などマルチな分野で抜きん出た実績を残し、おまけに文章を書くのにとっても役に立つ文庫本も出し(「日本語の作文技術」は推薦しておきます。同じく朝日文庫)、別の本には格言、名言、箴言に引用させていただいた毛沢東の言葉まで採録してくれてる筋金入りのジャーナリスト、偉大なるルポライターだけのことはある。

 引用文にある「琵琶湖の漁師に対する有害魚駆除補助金を、期限付きで大幅に引き上げる」案は、大幅に拡大されて琵琶湖以外の水域でも広く採用されている。「有害外来種が釣れたら必ず持ち帰るなりして駆除する罰則つき義務を負わせる」こともリリース禁止として各地で実現した。今のところ、バスとギル対策として実際に行われてるのは、これぐらいのことだ。

 「違法な放流に対しては、誘拐や殺人や列車転覆に対するのと同じくらいに捜査と摘発を強化する」はまったくできていない。「『環境破壊防止法』を制定して厳罰を適用する」は特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律の制定や漁業調整規則の改定となって限定目的化されつつある。有害魚駆除補助金について「期限付きでないとそれ自体が目的化して"経済資源"になる危険性がある」との指摘はすっかり置き去りにされてしまった。今や滋賀県では琵琶湖の全漁獲高の数分の1に匹敵する億単位の外来魚買い上げ予算が毎年支出され、もはやこれなしに琵琶湖の漁業は立ち行かなくなりつつある。

 つまり、引用文で示唆されたうち、やりやすいことや誰かにとっておいしいことだけは実現したが、それ以外のやりにくいことや誰の得にもならないことはほとんどできていないのが現状だ。そのあたりの理念と現実のズレを埋め合わせ整合性を取るために出てきたのが、日本中にバスとギルが拡がったのはすべてバスアングラーとバス業界の責任で、バスアングラーとバス業界は全員が悪人で、バス釣りをしてるだけでも悪いというバス関係者全悪玉論である。これは引用文の著者の意図するところではないと思うのだが、後に外来魚駆除派、リリース禁止派となられた諸氏が次のような表現に誘導されたとしても、バス関係者全悪玉論を信じ込めるぐらいの単純な頭脳構造の持ち主であれば致し方ないかもしれない。

 いわく、「良識とか環境への配慮など持ち合わせぬ品性下劣な一部釣り人ども」「"スポーツフィッシング"以外に生態系のことを考える能力がなく、日本の自然や文化の絶滅を悲しむ能力もない日本の一部釣り人ども」「考える能力も悲しむ能力もない一部釣り人によるゲリラ放流」「鈍感で悲しむべき能力もない『貧困なる精神』の一部(あるいはかなり)の釣り人による、外来魚移植への地球破壊的・火星人的欲望はとどまるところを知らない」さすが一流の文章のプロだけに、注意深く「一部(あるいはかなり)の釣り人」などと書いておられる。しかしながら、単純な頭脳構造の持ち主が読んだら、えてしてこの「一部」というところだけ飛ばして理解してしまいがち。「『悲しむ能力』もない釣り人や釣り産業(釣り具製造業・一部釣り雑誌)やその御用学者や関係役人たち」と話がさらに拡がると、これを読んだ単純な頭脳構造の持ち主の誤解は妄想に拡大していく。「一匹ではもちろん、二匹や三匹のいたずら放流では繁殖に限度があるとなると、組織的大量放流の計画的犯罪の疑いもある。これによってだれが最もモーカルかを考えれば、この重犯罪捜査のヒントにもなるだろう」とダメ押しされるに至り、単純な頭脳構造の持ち主の妄想は確信として固定される。バスは完全駆除し、バスアングラーとバス業界は日本から殲滅しなければならないと……。(引用文はすべて「日本環境報告」から。初出は朝日ジャーナル91年12月〜92年1月)

 「日本環境報告」のこの章の締めくくりは、天皇への直訴状の内容を掲載している。つまり、皇太子当時の60年にアメリカからブルーギルをお持ち帰りになられた現天皇の責任こそ問わないが、環境問題への積極的な取り組みを求める直訴状を送り、それを持って全国民にことの重大さを訴えてるわけだ。92年時点でギルの問題点を指摘し、それを天皇が持ち帰ったとはっきり書いてることも注目に値すると言えるだろう。

 ところが非常に残念なことに、ギルが日本へ来てからのことについては、1974年の世界動物百科からの引用として「日本への移植は、一九六〇年一〇月皇太子殿下が、アメリカ旅行からご帰国のおりに一七匹を持ち帰られ、淡水区水産研究所へ下賜されたのが最初である。それが多数繁殖したので、国内各地の水産試験場などへ配布し、一部は静岡県の一碧湖などの湖にも放流されて繁殖している。現在は一碧湖のほか、琵琶湖、霞ヶ浦および四国や九州の一部などにも見られる」としか書いていない。

 さらに付け加えると、「魚の場合、『日本に』移植しただけではその一つの水系なり湖から他へ移ることは一般にできないのだから、そのためにはその都度の環境破壊犯を必要とする」という記述もあるが、これは「一般に」との制限付きでも「その都度の環境破壊犯を必要とする」と断定するのは正しくない。古くはオイカワ、ハス、ニゴイ、タイリクバラタナゴ、テラピアなどの拡散から現在のコイヘルペスウィルスの蔓延まで、水域を自由に飛び越えて他へ移ったとしか思えない日本の淡水魚の例は枚挙に暇がない。自然、偶然、故意、過失、原因は各種あるだろうが、それが現在の常識であるからして、バスとギルの拡散のすべてがバスアングラーとバス業界の責任でないことは今さら言うまでもない。

 ここまで書けば、聡明な読者諸氏はすでにお気付きだろう。何年もたってから出た「ブラックバスが○○○を食う」(だから食べないってば!!)は、ほとんど「日本環境報告」の受け売りと根拠もデータもないままの拡大でしかない。そして、欠落している部分もそっくりそのまま引き継いでしまっている。その意味では、リリース禁止という着想の原点は「日本環境報告」にあったのではないかと思ったりもするのだが、過去のことは置いとくとして、問題はその後どれぐらい勉強して問題の核心に近付き、実現可能な問題解決の方法を探り出すことができたかだ。

 その点、バスとギルの完全駆除とリリース禁止の徹底を訴え続けておられる人達の論に90年代以降、何か進展があっただろうか。「啓蒙効果」などという苦し紛れの逃げ口上以外に具体的な進歩が見られないのは残念な限りである。「日本環境報告」の著者が当時所属しておられた朝日新聞の現在の報道内容を見ると、いまだに何の勉強もしてないか、あるいは調べて気付いたことはあるけど自分達の過去の無知や間違いを認めたくないために「日本環境報告」や「ブラックバスが○○○を食う」(本当に食べてないよ)の呪縛から抜け出すことができず居直り続けてるとしか思えない。

 やっと今頃になって、バスよりもギルの方が問題だと言い始めたメディアもあるが、その問題のギルがどのようなプロセスで日本中に拡がっていったかについては誰も触れようとしない。意図的にか、あるいは単に知らないだけかに関わらず、今ではかなりよく知られてる問題点に触れようとしないのでは、事実を隠したがってる人達の応援をしてるのと同じことである。バスが違法放流以外で拡がった可能性について誰も話したがらないのも、これとまったく同じこと。言いたくないこと、触れたくないこと、自分達にとって都合の悪いことは、すべてなかったことにしておこうという姿勢はあいかわらずで、進歩のかけらもない。

 その一方、バスアングラーとバス業界の側はここ数年に渡り、たいへんな量の勉強と議論を重ねながら問題の核心に近付く努力を続けてきた。得は取るけど労は積みたくない駆除派や趣味でやっておられるリリース禁止派は差を広げられる一方である。これでは話にならないから、駆除派、リリース禁止派としては正面切っての議論からは逃げ続け、問題解決は剛腕、ごり押し、金権、利権の手にゆだねるしか方法がなくなってしまった。かくして対話は断ち切られ、本当の問題解決は永遠に先送り、無駄な公費の支出が続き、バスとギルは目標もデータもなく殺され続け、バスアングラーは釣り場から次々と追い出される。その後に残るのは、無知蒙昧強欲の手にかかるしかない水域と魚達である。

 本当の意味での問題解決を望むのであれば、もういいかげん勉強や資料集め、BBSでの予行演習はやめて、正面切って顔突き合わせての議論を再開してはいかがだろうか。バスアングラーとバス業界、釣り協、日釣振の準備は整ってると思うんだけど、駆除派、リリース禁止派の体勢はどんなもんだろうね。もしかしたら逃亡兵続出でそれどころではないか!? 「啓蒙効果」なんて言いだしたのは、それゆえの「転戦」かと、ある意味納得しないでもない。

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