Presented by B.B.C./Biwako Bass Communications

Editorial
Vol.19(03/01/27)

事件の功罪その2

 堅田漁港を出た漁船が琵琶湖大橋をくぐり抜けて北湖へ向かう。堅田漁港を出て北東へ変針すると、左手側から大きくエリが張り出している。その先端をかわしてから、大橋が一番高くなった航路の所ををくぐろうとすると、進路が大きく蛇行することになる。それを嫌ってのことであろう。たいていの漁船はエリの先端をかわしてから、そのまま真っ直ぐ走って、大橋の橋脚の間隔が狭くなった所をスピードを落とす素振りもなく通り抜けて行く。

 琵琶湖の漁船の多くは、船体が細長くて舳先が鋭く尖った独特の形状をしている。その細長い船体にどんな強力なエンジンを積んでるのか、けっこうなスピードが出る。それが琵琶湖大橋の狭くて見通しの悪い橋脚の間を走り抜けて行くから、近くで見ていると迫力満点。その走りっぷりから察するに、琵琶湖は自分達のもの、釣りをしているボートは漁船をよけるのが当然と思っているじゃないだろうか。あるいは、わざと釣りをしてる近くを走ってるんじゃないかと思ってしまうこともある。こちらがバスボートならそれでも大して恐い感じはしないが、カートッパーや小さなローボートなんかだと怖さは何倍にもなる。

 バスの駆除とバス釣りの全面禁止を提唱した本の著者が以前、琵琶湖の漁の風景を描写した中に、高速のバスボートが漁船の近くを走り抜けていくシーンがあったが、バス釣りのボートの近くを精悍な白い船体の漁船が高速で走り抜けていくというのは見たことがない。しかしながら、事実は両方のことが琵琶湖で起こっていて、片方はメディアに取り上げられて、片方は取り上げられないのである。

 琵琶湖でバスフィッシングをしている最中に近くを走っていく漁船を見て、「すごいスピードやけど、いったいどんなエンジン積んでるねん」と話し合ったことが何度でもある。コアユの沖すくい網の漁船は、コアユの群れを見付けると猛然と黒煙の排気を撒き散らしながらダッシュしていって、舳先に装備したブルドーザーのショベルのような網でガバッと群れごとすくってしまう。そのダッシュはド迫力もので、ビルフィッシュトーナメントのスタート時に轟音とともにダッシュするクルーザーに負けないぐらいだ。

 この漁船の大きさと搭載するエンジンの最大馬力数を規制したのが、滋賀県の漁業調整規則第49条である。

滋賀県漁業調整規則第49条

次の各号に掲げる漁業には、上甲板下の船体主要部の容積が17.77立方メートルを超える漁船(昭和57年7月18日以前に建造された漁船にあつては、旧簡易船舶積量測度規程(昭和7年逓信省令第12号)の規定に基づく総トン数が5トンを超える漁船)を使用してはならない。
(1)小型機船底びき網漁業
(2)あゆ沖すくい網漁業
(3)えびたつべ漁業
2 前項各号に掲げる漁業には、馬力数が127キロワットを超える漁船を使用してはならない。
(平3規則31・全改、平14規則11・一部改正)

 馬力数127キロワットというのがちょっとややこしくて、旧漁船法の規定によると35馬力、通常の馬力数にすると何倍にもなって数字に幅が出てくるのだが、控えめにおよそ150馬力と思っていただければよい。150馬力というとバスボートではぜんぜんめずらしくないエンジンサイズだが、漁船の大きさから考えて、しかもディーゼルエンジンであることも考慮すると、それであのスピードをどうやったら出せるのか、すくい網のダッシュができるのか不思議だった。

 その謎が一挙に解けたのであるから、頭の中のわだかまりが一つ取れた思いのバスアングラーは少なくないはず。1月24日にいっせいに報道されたところによると、琵琶湖で操業している約900隻の漁船のうち約3割が漁業調整規則違反の高馬力エンジンを搭載し、それをあろうことかエンジンプレートなどを付けかえるなどしてごまかしていたという。先日の滋賀県漁業協同組合連合会長らによる恐喝未遂事件に続くスキャンダルである。

 こんな事件が続くと、監督する立場の県農政水産部や水産課はたいへんだ。その結果、わけのわからないコメントを連発することになる。そんなのに突っ込みを入れるのは品のないことだと思うのだが、ついついやらずにはいられない。

●朝日新聞滋賀版1月25日朝刊「県では、高馬力のエンジンを搭載する背景について、漁獲量には関係ないものの、漁場に早く到着することや悪天時に安全に帰ることなどがあるとみている。」

 高馬力エンジンを載せても漁獲量に関係がないんだったら、漁業調整規則による制限はいったい何なんだ。現状に合わない規則をかえるべき、あるいはそんな規則を守る必要はないと言いたいのか。「漁獲量には関係ない」っていうのは「琵琶湖の漁業は生態系と共存している」という県の立場から出てくる発言なんだろうけど、ことここに至っては嘘バレバレでお笑いでしかない。このコピーを考えた人には、ブラックユーモア大賞を贈呈したい。

 今、面白い言いかえを思い付いた。「琵琶湖の漁連会長は土建業者と共存している」というのはどうだろう。オリジナルに習い、食う、食われるの関係をうまく皮肉ってていいんじゃないかと、これは自画自賛。

●京都新聞ニュース1月24日「県水産課によると(中略)馬力を大きくするのは、漁獲を増やすのと荒天時に対応するためとみている。」

 県は「漁獲量には関係ない」と言い、水産課は「漁獲を増やす」ためと言う。あんたら、どっちやねん!! あるいは、同じコメントが掲載紙の違いで180度反対の意味になってしまったのか。ここは言った言わないの議論ではなく、なぜこういうコメントが出てくるのかをよく検証した方がよさそう。

 普通に考えれば、大きなエンジンを積めば漁獲量も上がるはず。朝日新聞の記事が間違いでないのなら、「漁獲量には関係ない」と言った人物は嘘つきだということになる。外来魚のリリース禁止に関しても幾多の虚言、妄言の類を目にしているが、なかなかこんなこと抜け抜けと言えるものではない。このコメントの主って、「琵琶湖の漁業は生態系と共存している」っていうコピーを考えたのと同一人物じゃないのか。「漁獲量には関係ない」っていう発言と「琵琶湖の漁業は生態系と共存している」というコピーは、國松政権下の滋賀県行政においては見事に共存している。

●朝日新聞滋賀版1月25日朝刊「県水産課は『担当職員3人で不正を見抜くのは困難だが、検査に問題はあった』と言う。29日からの立ち入り検査で違法が分かれば、漁船の登録を抹消し、1カ月間の操業停止処分にする。」

 担当職員3人で漁業調整規則違反の不正を見抜くのは困難だけど、公金支出に対する「チェック体勢は万全」(Editorial Vol.18)っていうのは、どう考えても矛盾してると思うんだけど、舌の根も渇かないうちによく言うわ。あの県知事あって、この職員ありか。

 そんな職員が29日から立ち入り検査するって!? 大丈夫か。これで公金支出の不正チェックなんかますますできなくなるのは間違いない。4月1日ももうすぐだぞ。漁船の立ち入り検査と公金の不正支出のチェック、4月1日からのリリース禁止条例の施行は、水産課職員の仕事としてはたして共存できるのか。

●朝日新聞滋賀版1月25日朝刊「県は『県漁連を通じた調査に対し、工学上の馬力と勘違いし、違法だと自ら申告した漁業者もかなりいるのではないか』とみている。」

 例えばヤマハ発動機のエンジンカタログを見ると、漁船用のエンジンであるMDシリーズの馬力数には最大出力と連続定格出力、漁船法馬力数の三つの表示がある。著者がキャプテンをしているワイルドキャット(ヤマハUF-33)のエンジンは直列6気筒インタークーラーターボのMD580KUH。最大出力は260馬力(3000回転)、連続定格出力は200馬力(2850回転)、漁船法馬力数は60馬力(旧法馬力)。つまり、何を言いたいのかというと、漁船のエンジンの馬力数ってとてもややこしいのだ。

 それを勘違いして申告した。例えばヤマハMD202KUHYの漁船法馬力数は25馬力だから、それを載せてる漁船なら問題ないのに、最大出力の80.9馬力っていうのが漁業調整規則に違反してると勘違いして、県漁連の調査に対して自ら申告した。そういう漁業者がかなりいるから、実際に漁業調整規則に違反する高馬力エンジンを積んでる船はそれほど多くないのではないか。上の記事はそういうことを伝えているのだが、本稿の解説を読まずに記事だけ見た人は、漁業者が何をどう勘違いしているのか、それで県が何をどう見ているのか、はっきり言ってさっぱりわからないのではないかと思う。

 著者は上記記事の県のコメントを読んだときに、最初のうちは次のように解釈していた。最大出力で言うところの馬力数と漁船法馬力を間違えて大きなエンジンを載せてしまってる漁業者が、そのことをアメリカ合衆国初代大統領のジョージ・ワシントンみたいに自ら正直に申告したのだから偉いでしょと県が言ったと、そういう意味にだ。ところが、それでは勘違いの仕方が逆であって、著者が解釈した通りだと最大出力35馬力以下、漁船法馬力数で20馬力そこそこのノンターボエンジンを載せてないといけないことになってしまう。記事が間違ってるのか、あるいは著者の理解の仕方がおかしいのか、さんざん考えながらエンジンのカタログデータなども調べているうちに、記事が訴えたいのは上のようなことかと気付いた次第。それにしても舌足らずで人騒がせな記事である。なんでこんなフォローを著者がしないといけないんだ!? って、また言ってしまった。あるいは、こういうことかもしれない。「ローカルメディアは地方行政と共存している」そのお互いの手抜きの一例がこの記事か。

 だけど、それにしてもである。一般に最大出力を言うときの馬力数と漁船法馬力にはノンターボエンジンで2〜3倍、ターボチャージャー付きだと4〜6倍もの開きがある。それぐらいの違いがあれば値段だって何倍も違うし、大きさだって一回りや二回りの違いではない。普通、そんなもん勘違いするか!?

●京都新聞ニュース1月24日「県水産課によると、昨年3月、登録申請のあった近江八幡市の新造漁船の検査をした際に、35馬力の届け出にもかかわらず、大型の90馬力のエンジンを積んでいるのを見つけた。彦根市内の造船業者が取り付けたという。これをきっかけに県内の漁業協同組合を通じて漁船を調べた結果、多くの船で偽装の疑いが強まったという。」

 漁船法馬力で90馬力って言ったら、最大出力400馬力ほどにもなる。海で使われている漁船なら40フィートクラス以上に搭載される大きなエンジンだ。それを35馬力と偽って搭載しているのを新造船検査のときに見付けた。そこでほかも調べてみたら多くの船で艤装の疑いが強まったという記事だが、ということは検査を通っていた漁船が多数あったということになる。

 例えば50馬力の船外機と100馬力、150馬力の船外機の違いって、誰が見たってわかるはず。漁船の船舶検査は5年に1回。そのときの担当者は何も見てなかったのか。2倍、3倍の出力のエンジンが載ってるのを一目見てわからなかったとしたらド素人だ。それがわからなかった人間や組織に、公金の不正支出のチェックなんかできるわけがない。もっと正確に言うと、チェックする気なんか最初からあるわけない。なぜそう言えるかというと、エンジンの出力を何倍もごまかしてる船の検査を通すなんてことは、まったくやる気がなくてまともな検査なんかしてないか、あるいは検査する側も最初からグルでないとできっこないからだ。

 その証明が次のコメント。

●京都新聞ニュース1月24日「同課は、これまでの検査で偽装を見抜けなかった理由について、『エンジンには馬力数を示す機関銘板(表示板)が取り付けられているが、これまでの検査は、届け出の馬力数と表示の照合を行うだけだった』と説明している。」

 「届け出の馬力数と表示の照合」はしていた。つまり、検査時にエンジンは見ていた。にもかかわらず、一目見ればわかるはずのエンジンの大きさの違いに気付かずに、数字の照合をしただけで検査に合格させていた。ということは、わざと見て見ないふりしてたとしか考えられない。あるいは、もしかしたら本当に見てもわからなかったのかもしれないが、それならなぜそんな人間に検査させたのか。いずれにしても行政の責任は重大である。水産課もそのことをよくわかってるから、漁業者に遠慮して押っ取り刀で1月29日から立ち入り検査を始めるなんて言ってるのか。

 これを公金の不正支出のチェックに置きかえると、支出した公金が振り込み口座からきれいさっぱりなくなったことだけは確かめたが、それ以外のチェックは何もしていない、あるいは帳簿上の金額の足し算引き算が合ってるかどうかは確かめたが、何かあやしいところがあるかどうかは確認しようともしなかったということになる。「水産課は漁業者と共存している」か?

琵琶湖で続発する事件のニュースを見て思ったこと
B.B.C.ホット情報(03/01/26)
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Editorial Vol.20

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