Presented by B.B.C./Biwako Bass Communications

Editorial
Vol.25(03/02/27)

琵琶湖の遊漁船登録の行方

 琵琶湖バスのリリース禁止まで残すところあと1カ月。2002年6月に滋賀県が「滋賀県琵琶湖のレジャー利用の適正化に関する条例」の要綱案を発表してからこれまで、リリース禁止をどう受け止めるかについて様々な提案や問題提起が行われてきた。Bassingかわら版でも様々な情報や提案をお伝えしてきたが、このまま考え続けていても何も解決しないことはあきらかである。これからは、実際にリリース禁止を迎えるにあたって何らかのアクションを起こさないといけない。そこで今回から数回に渡って、琵琶湖とその周辺ですでに始まっているバスアングラーの動きについてお伝えする。

 滋賀県が琵琶湖のバスフィッシングガイドを対象に遊漁船登録に関する説明会を2月20日に開催したことはEditorial Vol.21でお伝えした通りだが、その説明会に約100人ものバスアングラーが集まった。その中には、実際にガイドをやっているアングラーもいれば、そうではないアングラーもいた。最大の注目点は、遊漁船登録をした場合にリリース禁止がどうなるかということだ。

 その結論は、遊漁船登録したアングラーは国から正式に認められた業としてバスを釣っているのであるから、レジャーとして釣り上げた外来魚のリリースを禁止する条例の適用対象にはならない。ガイド以外のときも、プライベートやトーナメント、取材などの目的に関わらず、この解釈は有効である。ガイドのための練習や下調べと、それ以外の釣りを線引きして区別することは不可能だから、遊漁船登録さえしてしまえば琵琶湖で釣ったバスをリリースするのは常時合法となる。ついでに言うと、2サイクルエンジンの規制対象にもならない。これはバスアングラーが遊漁船業法を勝手に解釈して言ってるのではない。滋賀県の遊漁船登録を担当する水産課の解釈であり、2月20日の説明会のときに出された質問に対して、このような説明があった。

 説明会の内容に従い、すでに遊漁船登録に動きだしたアングラーが多数いる。登録の手順は、まず改正前の旧遊漁船業法に従った遊漁船業の届け出を滋賀県知事に対して行い、4月1日に改正遊漁船業法が施行されてから正式の登録を行うことになる。正式の登録には6カ月の猶予期間があって、3月末までに届け出をすませた遊漁船については、その間に正式登録をすませればよい。登録に必要なのは、乗客1人あたり3000万円以上の補償金額を満たす保険への加入や10日間毎日5時間の実務経験の証明、安全講習の受講証明などだが、これらを実際にどうすればよいか水産課に問い合わせても、今のところ明確な回答は得られない。おそらく現時点では水産課もどう対応したものか決めかねているのであろう。なぜなら、滋賀県の水産課にそんなことやった経験なんかあるわけないからである。

 そこで、とりあえず旧遊漁船業法の規定に従った届け出をさせておいて、実際の登録手続きについてはこれから準備を整えていこうとしているところではないのか。だから、正式登録について何をどうすればよいのかと突っ込んだ質問をしても何も答が返ってこない。水産課にすれば、決まっていないものは答えようがないというのが本当のところであろう。その決まってないことに先回りして、実務経験や安全講習のからみで、早くも利権を確保しようという動きが垣間見える。琵琶湖の船舶関係の利権に強い人物や業者の動きには、十分な注意をしないといけないようだ。

 法解釈上は、遊漁船登録さえしていればガイド業は赤字でもかまわない。誰もお客さんが来てくれなくてもガイドはガイド。世の中に赤字の会社はいくらでもあるのと同じである。その点を突いて、ガイド以外のいろんな目的で遊漁船登録をしようとするバスアングラーが大勢出てきそうだ。中には、いっそのことマリーナの会員全員が遊漁船登録してはどうか、そのためにまず小人数で遊漁船登録して様子を見てはどうかという意見もある。すでに数軒のマリーナや数人のガイドが正式の手続きを開始していて、それが進めば、どんな書類をそろえてどんな手続きが必要かということが明らかになってくるだろう。遊漁船登録に興味があるアングラーの間で、そのような情報交換が始まったところである。

 ここで一つ大きな問題が浮上してくる。同じ琵琶湖でバスフィッシングをしているのに、遊漁船登録したアングラーがバスをリリースするのは合法、そうでないアングラーのリリースは違法行為になるという矛盾だ。これは言いかえれば、ガイドに使える大きなボートを所有していて、しかも遊漁船登録に必要な費用や手間暇をかけられるアングラーならリリースしてもよくて、2サイクルエンジンの使用もオーケー。その登録にあたって、本当にフィッシングガイドをしてるかどうかは問題にならない。リリース禁止条例と改正遊漁船業法の二つが、4月1日から同時に施行される結果、同じバスアングラーの中で差別が生じてしまうのである。

 なぜこのようなことになるかと言うと、琵琶湖でレジャー活動する者だけを対象に外来魚のリリースや2サイクルエンジンの使用などを禁止しようとする条例が、元々矛盾だらけだからだ。琵琶湖の水質保全のために2サイクルエンジンを規制しようというのなら、なぜ漁業者もその対象に含めないのか。漁業者は別の条例で猶予期間を10年ぐらいに長くしてもよい。本当に環境のためを考えるなら、そうするのがバランスというものであろう。滋賀県は、そんなごく簡単に疑問にさえ有効な回答を示せないでいる。バスのリリース禁止に関しても同様だ。そういう矛盾だらけの条例の最大の問題点が、たまたま同じ日に改正遊漁船業法が施行されることによって明らかになってしまったのである。

 そんな条例を制定した滋賀県知事が、遊漁船業法では登録を受け付ける立場にあるという、これほど皮肉なこともめったにない。まさか知事本人が遊漁船登録証の判子を押すようなことはないと思うのだが、できることなら皆でその場へ出かけて行って、目の前で判子を押して、直々証書を手渡してもらいたいぐらいである。

 これは法解釈の問題だから、遊漁船登録したアングラーが4月1日以降に琵琶湖で釣ったバスをリリースするのはあくまで合法である。その点に関しては文句の付けようがない。例えば岸釣りアングラーが、それは不公平でおかしいと思うのなら、そんなことを決めた条例が間違ってるのだから、国民の法の下の平等を定めた日本国憲法第14条に違反しているとして違憲訴訟を起こし条例の差し止めを請求するのがもっとも効果的かもしれない。遊漁船登録したアングラーがガイド以外のときにリリースするのは条例違反だと思うのなら、水産課の解釈が間違っていると訴えることもできるだろう。そのような訴訟で勝つか、あるいは世論に訴えて条例を改正させない限り不公平は解消しない。たとえどんな大きな矛盾を含んだ法律や条例であっても、日本という法治国家においては、それがいったん成立して施行されてしまえば、不公平が生じようとどうしようと決まりは決まりである。これを近来まれに見る悪法と言わないで、何を悪法と言うのだろうか。

 一般のアングラーにも何か同様の有効な突破口はないかと思うのだが、大勢のアングラーと一緒になって知恵を出し合っても、なかなか簡単には見付からない。当分の間か、あるいは永久にかはわからないが、琵琶湖のバスアングラーの間で不公平な状態が続くのは間違いなさそうである。ならば、この状況をどう捉えるかだが、たとえ不公平ではあっても、合法的にリリースを許された一部のバスアングラーが琵琶湖に残るのなら、それは琵琶湖のバスフィッシングを残していくために有効だと著者は考える。琵琶湖のバスフィッシングがすべて駆除につながるか、あるいはリリースを望むアングラーが誰も釣りをしないよりは、たとえ法律の不備の結果であるとはしても、リリースできるアングラーが少しでも残った方がよほどましではないだろうか。

 その先どうなるかは、遊漁船登録してリリースが許されることになったアングラーの態度にかかっている。今までガイドしてきた実績のあるアングラーが法律に従い遊漁船登録して、お客さんを乗せて釣りをしてるときに釣ったバスをリリースすることにも納得できないアングラーはそれほど多くないだろう。それ以外の、自分が釣りをするのが目的で遊漁船登録するアングラーをどう評価するかだが、それが合法的であれば文句を言う筋合いのことではない。あくまで一般のアングラーがどう評価するかだ。

 遊漁船登録のおかげで琵琶湖で釣ったバスを自分はリリースできるようになったから、それでよしとして、あとのことはどうでもよいというのは言語道断である。もし有名アングラーがそのような態度に出たら、これは一般のアングラーに対する裏切り行為に等しい。琵琶湖のバスアングラーの代表として遊漁船登録し、琵琶湖のバスをリリースしながら釣り続けることができているのは誰のおかげか。バスをリリースできなくなった大勢の一般アングラーのおかげにほかならない。そのことが理解できているのであれば、琵琶湖でバスフィッシングを続けると同時に、一般のアングラーのリリースもいつかは認められるように、一般のアングラー以上の努力をし続けることが必須である。それをしないのであれば、これはアングラーが少なくなった琵琶湖のおいしいところだけ持っていって、ほかのアングラーのことは何も考えてないということの証明だから、それなりの対処をするしかないと著者は思うのだが、はたして琵琶湖のバスアングラーにそんな評価能力や実行能力があるのだろうか。

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