Presented by B.B.C./Biwako Bass Communications

Editorial
Vol.36(04/02/24)

滋賀県の常識、日本の非常識

 滋賀県は2月23日、救命胴衣の着用義務や罰則を盛り込んだ滋賀県琵琶湖等水上安全条例の改正案を県議会に提案した。この改正案は水上バイクを含むエンジン付きレジャー用船舶をプレジャーボートと定義し、その操船者に対して乗船者に救命胴衣を着用させることを義務付け、警察官の指示に従わない場合は20万円以下の罰金とする罰則規定を設けると同時に、貸船業者やマリーナ業者などに対しても着用を指導するよう求めている。また、すべての船舶で酒酔い操船が禁止され、違反者には2月以下の懲役か30万円以下の罰金が科せられる。議会最終日の3月24日に採決予定で、可決されれば7月1日から施行されるとのこと。Kyoto Shimbun Newsが同日付けて伝えた。琵琶湖の湖底から04/02/23

 昨年9月に志賀町沖の琵琶湖で発生したヨットの沈没事故を受けてのことらしいが、今なぜわざわざ業務に用いられる船を除外するための規定を作った上で、プレジャーボートだけに救命胴衣の着用を義務付けるような条例の改正案が出てきたのか、まったく理解に苦しむ。海上保安庁が海でやってる救命胴衣の常時着用普及に向けての取り組みは、プレジャーボートだけでなく漁業者も対象にしている。それにくらべると、滋賀県の認識にはあまりにもズレがあり過ぎやしないか。

 昨年春頃から、海のルアー船で釣りをしているときにライフジャケットを着用していないと、船長から着用するように言われるようになった。それまでは何も言われなかったのが、急にどこへ釣りに行っても神経質に言われるようになったのだ。

 実際、釣りをしてる目の前へ巡視船がやってきて、ハンドマイクのボリュームをいっぱいに上げて「救命胴衣を着用してくださーい!!」と言われることもある。全員が着用するまで巡視船は動かないから、うっとおしいったらない。最初からライフジャケットを着用してるアングラーにすれば迷惑千万。嫌がってたアングラーもしぶしぶ全員が着用したのを確認して、ようやく巡視船は立ち去る。それでやっと船内に平穏が帰ってくる。そういうことを繰り返して、それでもいつまでたってもライフジャケットを着用させてないと、ついには船長が呼び出しをくらって保安所へ出頭しないといけないことになる。

 そんな努力を続けた結果、ついに船長みずからライフジャケットを着用するように言うようになった。良心的な船は、釣りがしやすい膨張式のライフジャケットをわざわざ定員の数だけ購入して着用を勧めている。アングラーの方でも、自分が気に入ったライフジャケットを最初から持ってくることが多くなった。それ以前から、バスアングラーが海へ釣りに行くときはライフジャケットを持参することが少なくなかったのが、今や全員に拡がりつつある。

 ルアー船で釣りをしてたら、近くで漁をしてる高齢の漁師がオレンジ色の救命胴衣を着用してるのが見えた。それに気付いて、「漁師も救命胴衣を来るんですね」と船長にたずねたら、「あれは組合の理事やから仕方なしに着けとるんや」と言われたことがある。保安庁の指導は遊漁船だけではなく、漁協などに対しても盛んに行われている。こちらは遊漁船にくらべるとなかなか着用が普及しないが、保安庁があまりにもうるさいもんだから、役員だけは仕方なく救命胴衣を着用するようなことになってるわけだ。

 その間、琵琶湖で海上保安庁にかわって湖上の安全を担う滋賀県警は何をやってたか。これほどの努力が海で続けられているさなかの昨年9月に琵琶湖で転覆したヨットが沈没し6人が死亡、1人が行方不明になるという事故が起こった。犠牲者の多くが救命胴衣を不着用、おまけに船長が飲酒していたとあっては、はっきり言って大失態である。バスアングラーが捜索の協力に駆け付けたときに無視するような態度を取るのも、騒ぎを大きくしたくない警察としては無理もない。おまけに自分達が1日捜索しても湖底に沈んだヨットを見付けられなかったのに、翌日バスアングラーが捜索に出てきて昼過ぎにはあっさり見付てしまった。そんなことメディアに報告するわけにいかないという気持ちも理解できないではない。

 そんな県警にまかせておけないと県が思ったかどうか、それなら自分達の手でなんとかしようと出してきたのが今回の条例改正案であろうか。それにしても、琵琶湖で今まさに改正されようとしてる条例案で、わざわざプレジャーボートだけに限定して救命胴衣の着用を義務付けるというのは、海上保安庁の取り組みとくらべて、あまりにも時代に逆行してはいないだろうか。県も県警もどっちもどっち、ミミズとオケラの知恵くらべとはこのことである。

 県の担当者は海での救命胴衣着用普及活動の実態について何も知らず、保安庁に聞いてみるなんてことは考えもしないまま、机の上だけで条例案を作ったのであろう。それを議会に提出した國松県知事の顔は、テレビのニュースで見る限り、リリース禁止条例制定に向けてがんばっておられたときと同じように晴れ晴れとしていた。そんな滋賀県の常識感覚を疑わざるを得ない。

 このようにして制定された条例で琵琶湖の水上安全の確保ができると本気で考えてるとしたら、まったくお笑いぐさである。救命胴衣不着用の漁業者が水難事故を起こさないように祈らないではいられない。リリース禁止条例施行直後のように、またしても國松県知事が意気消沈されないように、漁業者各位におかれましては事故など起こさぬよう、くれぐれもご注意をお願い申しあげたい。もし起こったときには、それでもバスアングラーは捜索の協力に出向くであろうが……。

 かくして、滋賀県の常識は日本の一般的な常識からかけ離れていく。上がそんなことだから、およそ常識のかけらもない輩が滋賀県の至る所にのさばるのは言うまでもない。公有水面の海区である琵琶湖で釣り禁止なんてことを恥ずかし気もなく公然と言う人物が出てくるのも無理ないのである。

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